開発責任者の息子は発達障害

開発を始めた当時、私の息子は6歳。特別支援学校の小学部1年生。
発達指数が68という軽度な知的障害を伴う広汎性発達障害です。
障害への診断は、2歳10ヶ月の時に、地域の療育センターにて診断されました。特性としては、物事への拘り強く、そして視覚的に優位な特性もあり、見た物への恐怖を強く感じてしまうタイプです。  また、聴覚的な過敏もあり、イヤーマフという防音保護具を使い、大きな音への恐怖を軽減させている、自閉的な傾向がとても強いタイプでした。

歯科治療での問題

そんな息子が5歳の時に奥歯に虫歯ができて、とても痛がっていましたので、近くの歯科医院へ連れて行きました。
息子はそこで初めて見た歯科医院、治療器具、診療台、そして白衣を着た医師などに恐怖を募り、不安からパニックになりました。ですが治療をスムーズに行わなければならず、パニックになっている息子を、医師は診療台にネット(レストレイナー )で固定して治療を開始しました。
それによりさらに不安を募らせ、パニックが大きくなり、嘔吐を起こし、食べ物を喉に詰まらせて呼吸困難になり、治療がストップしました。  医師に決して悪気があった訳ではありません。治療の途中で動いてしまうと事故になってしまうので、医師はただ暴れる息子を拘束して「虫歯治療」という医療分野で対応したと思います。
しかし、歯科医院の医師は発達障害という特性については理解できていなかったようで、ただ拘束して治療をすることが正しい治療だと思っていたと思います。しかしそれが結果的に息子の障害特性において、大きな恐怖とトラウマになってしまい、息子は二度と歯科医院を受け付けなくなりました。

心理的・感覚的過敏性の強い発達障害の方への歯科治療の現状

その後、息子の歯科治療の問題について、開発責任者の金子が個人的に公開しているブログ『マサキング子育て奮闘記』において、この歯科治療について記載しました。 そうしたところ、同じ障害特性を持つ子どもたちの親から、同じような問題を抱えており、発達障害者への歯科治療についてはひとつの社会的な問題にもなっていることが分かってきました。

「虫歯一本命取り」「医療分野ではまだ格差が大きい」

そんな意見のなか、私は息子の経験から「医療の分野において、地域で治療を受けられるような体制ができないのか? 親としての経験から少しでも医療のバリアフリーを目指していきたい」と感じるようになりました。

自閉症者の患者を専門に治療を行う歯科医師との出会い

その後、普通の歯科医院では治療が困難になった息子を治療してもらえる場所を探しました。
そして知人から紹介を受けたのが、日大松戸歯学部の特殊歯科に勤務し、自閉症スペクトラム支援士でもあり、日々自閉症特性のある方を対象に治療されている、伊藤政之先生と出会いました。
出会いは、2011年6月30日。その伊藤先生との懇談については、個人ブログでも「日大松戸歯学部にて懇談」として記載しています。
伊藤先生は「発達障害の人たちを よろしくお願いします」というパンフレットを監修し、医師から同じ医師たちに、発達障害のある人たちの治療方法について理解を求める啓発パンフレットを作成。
そこの歯科治療についての診療方法について監修されている方です。

発達障害の人たちをよろしくお願いします
※PDFファイルを開きます。

我が子の治療風景を撮影・公開

この発達障害の特性が強い障害者に対しての治療とその問題を少しでも理解と協力をしてほしい! この思いから、伊藤先生にご協力を頂き、治療風景を撮影してyoutubeで公開しました。 公開から1年で再生回数は10万回を超え、大きな反響となりました。また視覚的な支援の有効性、そしてその視覚支援で使う絵カードのデジタル化とより具体的なカードを使える方法はないか?と考えました。 実際にこの動画では、治療前に器具を見せて順番を示す事で視覚的に安心感を与え、本人から治療を望んで受けていることが分かると思います。この様に先の見通しが見えることで、パニックを軽減させ治療ができるようにもなります。

絵カードを使った視覚支援の優位性

伊藤先生は「発達障害の人たちを よろしくお願いします」の中でも記載している通り、絵カードを使って治療内容や器具の説明を行い、患者の不安を軽減しています。 視覚優位な自閉症特性のある人たちに対し「次にどのような治療が行われるか?」「この治療器具はどのような用途なのか?」を絵カードで示す事により、器具や治療に対しての不安を軽減することができる場合もあると言われていました。 私は自分の息子の体験と特性からこの絵カードによって先の見通しが困難で、不安やパニックを起こしてしまう患者に対して、支援機器としての開発を考案しました。

より具体的に!そしてリアリティがあるデジタル絵カードの活用

我が子の治療のあと、伊藤先生と懇談した際に 「この絵カードをデジタル化してシステムとして組込み、またカードの並べ替えや、入れ替え、そして患者ごとにカードを選択して保存できるようになったら効果的なツールとして有効活用はできそうか?」 と質問しました。

伊藤先生は「そのようなシステムはまだ無い。自閉症特性のある人たちはもともとダブレットなどのデジタル機器の活用に慣れているケースもあり、その機器でカードがより具体的になれば効果が期待できると思う」と言われました。

私は株式会社マイクロブレインとして10年以上、システム開発に携わり、IT関連の業務に従事していました。アナログ式絵カードをデジタル化することで・・・

・患者の特性に併せた具体的なカードを選択できる
・患者ごとにカードを組み替えたりすることができる
・タブレットのカメラ機能を使い、写真撮影した素材を即座にカードとして使える
・動画や音声などもカード化し、実際の治療風景なども録画して次回の診療時にカードとして使える

などの仕様を考案、はっするでんたーの基礎となる仕様策定を行いました。

障害者への支援機器の市場

しかし機器を考案したものの、障害者への自立を促す支援機器のマーケットはとても小さく、大きな開発費を投じても採算の見込みが持てないことで、この開発を具体化することは、当社の様な中小零細企業では資金面や販路開拓、アドバイザーなどの面においても不足であり、事業化と製品化はとても困難な状態でした。 そこで、「どこか支援機関において、この開発を助けてくれるようなものは無いだろうか?」と調査を進めていたところ、厚生労働省に本開発にマッチングした助成事業がありました。

厚生労働省 障害者自立支援機器等開発促進事業に応募して採択

我が子の歯科治療による問題を自分の体験から、そして私が公開しているブログから社会的な問題となっていることを伝え、「発達障害者の歯科治療の困難を軽減する支援機器」の開発とその必要性を申請資料に纏めて提出しました。
その後、各有識者で構成される本事業の評議員に対してプレゼンテーション審査を行いました。そのプレゼンで、本支援機器の必要性が認められ、平成24年度障害者自立支援機器等開発促進事業の二次募集において採択されました。

本開発事業のさらなる躍進を目指して


平成24年度には、第一次試作機を完成させ、平成25年度には第一次試作機の開発に従事しました。「よりたくさんの患者へ、より具体的に活用出来るように」という思いから、障害者歯科の治療に携わっている専門の医師たちの協力体制が出来上がってきました。 これも、厚生労働省の補助事業であるという信頼性と、埼玉県において経営革新支援計画の承認をえて、行政や自治体と一体になり、取り組んでいったことが信頼に繋がっていったと思います。 岡山大学病院、大阪大学歯学部付属病院、静岡県立こども病院、日本障害者歯科学会など障害者歯科の分野で治療を行っている各大学の教授、助教、センターなどにも監修や協力機関に入って頂き、発達障害者への歯科治療に対して専門家とタイアップして開発に取り組んでいます。

歯科医院だけでなく療育の場でも活用してほしい

平成26年度の障害者自立支援機器等開発促進事業では、平成24・25年度で開発をした試作機について「歯科医院だけでなく、家庭や療育施設、支援学校等でも活用してほしい。 また治療だけでなく、検診時にも活用できるようなツールへと発展させたい」という思いから、iPad版への移植開発を行っています。

また「日本で考案された支援機器を世界へ発信していきたい」という想いから、このはっするでんたーの多言語化を行い、10月2日~4日にドイツ・ベルリンで開催される国際障害者歯科学会へポスターセッションとして掲示して、実機も展示しました。

一人の父親が我が子の問題を感じて汲み取り開発を進めている、発達障害者の歯科治療の困難を軽減する支援機器『はっするでんたー』です。